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みどりの通信 2025年2月号 値上げのお知らせ/手を動かして命を養う

値上げのお知らせ

 4月から、野菜セット代金を値上げさせていただきます(詳細は別紙)。燃料代や資材代の値上げに加え、異常気象(酷暑、干ばつ、暖冬)による不作、害虫の大発生による減収など、農家にとって苦しい状況が続いています。

 本来ならば少しずつではあれ、就農時より経験値が上がり、収益も増えているはず…なのですが、上記のような理由で、農業への投資と生活を回すことが年々厳しくなってきているというのが実際です。昨年はトラクターが故障したこともあり、いよいよまずい(トラクターが買い換えられない=耕せない=営農できない)となり、なんとかしてこの地で営農&暮らしを続けていけるよう、値上げをさせていただくことにしました。

 物価上昇の折、野菜セット代も値上げとなり、大変心苦しくあるのですが、無理のない範囲でお付き合いいただけると幸いです。 

 さまざまな逆風が吹くなかでも必死にしがみつきつつ、春のそら豆、初夏のトウモロコシ、真夏のキュウリに秋冬のホウレンソウなど、季節が巡る喜びを皆さんと分かち合えたらうれしいです。(友亮) 

 

手を動かして命を養う

 1月4日の朝日新聞朝刊に、《「冷凍宅食」が、アツい》という見出しで、以下のようなことが書いてありました。

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 電子レンジで温めるだけの、栄養バランスのとれた冷凍弁当が定期的に届く「冷凍宅食」がコロナ禍以降広がっている。月に1度、14食の冷凍弁当を1食あたり680円で購入している利用者の一人は「30分料理を作ると考えたら、もう時給分で『ペイ』じゃん」と、料理を作る時間を時給換算すると、合理的な選択だと語る。こうした背景には、費やした時間に対する効果を重視する「タイパ(タイムパフォーマンス)」に加え、摂取カロリーに対する満足度を考える「カロパ(カロリーパフォーマンス)」の価値観があるとのこと。

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 定期的に〝料理する前〟の食材をお届けしている身としては、少々びっくりする内容でしたが、世のなかの効率化を求める流れとしてはさもありなん、と思いました。

 自宅での料理を時給換算するというのは、これまで主に女性が家族の食事づくりを無償で担ってきたことを考えると、他の労働と同列のものとして扱うという意味では少し前進なのかもしれません。いっぽうで、1食680円で手元に届く弁当の裏側がどうなっているのか想像すると、アツくなるどころかヒヤリとします。少し前に日本の米農家の時給を計算したところ、10円であった(農水省発表)というのが話題になっていましたが、コスパやタイパ、カロパがいい、の裏側には、フェアではない労働や搾取があるように思います。

 また、忙しいときに少しでも食事作りをラクにしたいという気持ちはとてもよくわかるのですが、効率化をとことんまで進めていった先には何があるのか、パフォーマンスを上げるために失われているものがあるのではと考えてしまいいます。

 たとえば大根や里芋を洗って切って鍋で煮て、味噌を溶いたらあったかい味噌汁ができる。レンチンごはんに比べたら時間も手間もかかるけれど、シンプルな味噌汁が自分を助けてくれることがあります。手を動かせば自分を養うことができるということは、それ自体が力であるし、私にとっては生きている実感につながっています。口に入れる食材の来し方に思いをめぐらせながら、土地や季節を味わい、体に入れていく感覚。微妙なさじ加減や食材の切り方で変わる味や食感。「効率」で切って落とされたくないと思います。

 すべてがお金に換算され、数値化され、お金を持っている資本家や権力者が一番強くて偉い。モラルも何もなく、皆が長いものに巻かれていく世界で、どうやって生きていくか。値上げをするにあたっても、世の中の流れと逆行するような有機農業の存在意義とは何なのか、ぐるぐると考え続けた1月でした(もちろん、営農を続けていくためには我々もパフォーマンスを上げなければいけないのですが…)。(照手)